2016年02月23日
やたわかエッセイ:第1話「決意」悩みに悩んだ。最後に私の背中を押してくれたのは…?
やたわかエッセイ:第1話「決意」
悩みに悩んだ。
最後に私の背中を押してくれたのは…?
パナソニックグループ労働組合連合会
副中央執行委員長
電機連合・PGU公認
参議院議員予定候補 矢田わか子
その夜も息子に申し訳ないとは思いつつ、
仕事がなかなか片付かなかった。
夏に副委員長に就任したが、それ以降、
担当分野が広がり、さらに忙しくなったと
実感する日々を送っている。
帰宅が遅くなり、息子を預かって頂いている
近所のお家に迎えに急ぐ。
夕食はすでに終わり、今夜はお風呂まで頂い
ていた。夫は結婚当時より、大半は単身赴任。
息子の育児は、母親や妹のみならず、近所の
方々に支えられてきた。
時に宿泊を伴う出張時のお泊り保育、急な発
熱時の病児保育までお世話になり、この間の
ご協力なくして仕事との両立はあり得なかっ
たと改めて感じている。
翌朝もいつもと変わらず、バタバタと息子を
小学校に送り出し、家を出た。大阪府門真市。
京阪電車の西三荘駅から5分程度の場所に、
私が通うパナソニックグループ労働組合連合会、
通称PGUの本部はある。この職場まで40分か
けて通勤し15年になる。
事務所に入ると廣田委員長から声をかけられた。
「今朝、少し時間とれる?」
担当している仕事の進捗状況の確認かと思い、
昨晩仕上げた資料を携えて委員長室に向かった。
ドアを開けた瞬間、なんとなく、委員長の雰囲
気がいつもと違った。直感的に身構えた。
昔から、こんな予感がする時はろくな事がない。
私が席に着くと、委員長は神妙な面持ちで話し
始めた…。予感は的中した。
この時、初めて、組織内公認候補として参議院
へ挑戦してみないか、という旨の打診を受けた。
まさに、寝耳に水の状態だった。
「本気ですか…?」
「私にはそんな大役は務まりません」
「もっと相応しい人がいるのではないでしょうか?」
「私が担当している今の仕事はどうなるのでしょうか?」
いやそもそも「子どもをこれ以上一人には出来ません!」
と、思いつくままに口から言葉があふれた。
誰がその場で、すぐに「はい」と言えるだろうか。
そもそも国政を目指している人であればわからない
でもないが、そうでなければ、青天の霹靂、誰しも
がそんな心境になるだろうと思う。
「少し、時間をいただけますか?」
それだけ言って部屋を出るのが精一杯だった。
きっと顔はこわばり、声も震えていたと思う。
自分の席にどう戻ったか記憶していない。
周りの方から「顔色が悪いけど、どうかしましたか?」
と聞かれた。
それから1カ月。
まずは夫、息子。
そして母、兄、弟、妹。
父は他界しているが、仏前に向かって相談した。
母や妹は、何よりも私の心身や息子のことを
心配し、「とんでもない!」と真っ向から反対した。
宿泊出張や帰りが遅くなること、世間への露出による
息子の気持ちなど、肉親として心から心配してくれた。
一方、息子と話す時間を持ったときの事。
小学6年生で、多感な年齢に差しかかる頃であり、
始めは戸惑った様子であったのが、次第に表情も固く
なり、そして
「どうせお母さん、もっと家におらんようになるんやろ?
そんなん、もういやや!」という叫びにも近い言葉が出た。
これには、さすがにこたえた。
仕事の関係者への相談は限定された。
それでも、一部の方々に相談すると、
「矢田さんは、今、公人になろうとしている。
これまで、組合の中で社会に貢献したいと必死に
頑張ってきたが、議員になれば、より大きな土俵で
より広い世界で、想いを実現できるのではないのか?」
そして、最後には、みんな必ずこう付け加えた。
「そうなったら、全力で応援するからな…。」
少し背中を押していただいた気がしたが、
「私にそんな大きなことが本当にできるのか…」
という不安はなかなか消えない。
別のある日、テレビで政治の番組を見ていた時。
司会者であるキャスターの問いかけに対する
出演議員の返答を聞いていたが、さすがの返答。
思いも政策もどっしりしている。
当然、今の自分にはそこまでのことは言えない。
そういうやり取りが続くにつれ、心臓が高鳴り、
汗が吹き出てきて、足がガタガタと震えてくる。
「やっぱり私には無理だ…」
少し前向きになりかけた気持ちも、また引き戻される
日々だった。週末、夫が東京から帰ってきてくれた。
「重要な相談がある」
と私が帰ってくるようお願いしたのだ。
自宅での時間はくつろぎたい貴重な時間なのだろうが、
夫は、一大事と思ってくれていたようで、私の話を
ゆっくりと聞いてくれた。
委員長からの打診と、そのときの委員長のお考え、
そして相談した一部の方々の教え、そして何より
自信を持てないでいる私の気持ちも。
一方的に話すこととなったが、真剣な面持ちで聞
いてくれた。
話を聞き終わった時、夫が発した。
「結婚前からこれまで傍らで見てきて
初めて言うけど、君はいつも周囲の皆さんに
支えられながらも、新たな世界を自ら切り
拓いてきたじゃないか。君の信じたことへの
挑戦なら、僕は協力するよ。」
それを傍らでじっと聞いていた息子まで、
「僕も協力するよ。お母さんが頑張れるよう
、心配しないよう、僕も勉強頑張るし、自分の
ことは自分でやるから。」と。
息子は不安で一杯にも関わらず、私のことを
必死に理解しようとしていてくれていた。
自然に涙が私の頬を伝った。
いつも、息子に言い聞かせてきたことの一つに、
「何事にもチャレンジする。
チャレンジしないで諦めたら、
その時点で成長は終わってしまう。」
という言葉がある。
この言葉を思い出した。
「私はチャレンジする前に諦めてしまうのか…。
いやそれはできない。」気持ちはようやく固まった。